何も考えずに、ただ思いを綴る

フロンティアの惨状を目にするのは、あまりにも辛い。
傷つき、飛び立つ力を失ったフロンティアが降り立った惑星が、美しければ美しい程、猶の事、胸がきりきりと痛む。
原因の一端は、自分と言う存在にあると知っているからだ。
自分の複雑な事情を知る人たちは、皆、そうでは無いと首を振って否定してくれる。
けれど、誰よりも自分が一番よくわかって居るのだ。
少なくとも、己の存在が、此処にヴァジュラを呼び寄せ続けたのは、間違いが無い。
ヴァジュラの善意は、自分以外には悪意として向けられていたが故の、悲劇だったとしても。
ヴァジュラが同族意識で、自分に救いの手を差し出してくれていたのだとしても。
その言い訳は、亡くなってしまった人たちには、伝える事も出来ないのだ。
詫びる事も。
「たくさんの人が、亡くなって……たくさんの人が、傷ついて……」
それでも、フロンティアがどうなってしまったのか、見ない振りをして生きて行く事だけは出来ない。
「私に出来る事って何だろうって考えたの」
まだ復興には程遠く、当座の生活基盤を最優先に、都市機能の回復が進められている。
「でね…結局、私には歌うことしか無いなって。言葉をいくら繋いでもね、伝えきれないんだ」
胸に燻る思いを、全て誰かに伝えきる事など出来はしないと分かっている。
それでも、言葉だけ、では足りない。
圧倒的なまでに、足りていない。
謝りたくて、詫びたくて。
慰めたくて、力づけたくて。
「シェリルさんが、歌しか無いって、そう言ってた意味がよく分かる」
歌う事でしか、伝えられないのだ。
人として、それはあまりに不完全なのかも知れない。
言葉も文字も持ちながら、それを使うに何ら支障も無いと言うのに、それでも自分たちは、音でしか本当の事を伝えられない。
悲しみ愛しさ嬉しさ怒り嘆き。
感情の一つ一つは、ありふれた言葉を音に乗せることで、ようやく人に伝えられる。
人は進化を続け、けれど結局は、そんな原初の『音』を捨てきれずに、此処まで来たのかも知れない。
「許さないって言われても、怒られても、私、歌うね。歌い続けるね」
振り返り、黙って話を聞いているアルトに告げれば、いつもと同じように頷きがなされる。
「あぁ」
「聞いててくれる?」
「お前の…お前たちの歌で、俺たちは救われたんだ。いつだって、聞くよ」
「ありがとう」
告げれば、アルトがただ穏やかに笑う。
この愛しさが、いつかアルトに届くようにとも願う。
たくさんの人の為にでは無く、アルトの為だけに歌う歌を、いつか、聞いて欲しいと思う。
果てない銀河を旅する彼らが歌い続けた、愛の歌を。